製作材料

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漆刷毛製作には、人間の髪、馬毛どの毛と、それを固める糊と漆。そして毛板(けいた)と呼ばれる糊漆で板状に固めた毛を、はさんで密着させる板を材料として使用します。

その中で特に重要なものが人毛です。以前から、この良い人毛を継続的に確保していくことに懸念がありましたが、ここ数年の間にそれが現実的な問題となってきています。近い将来、人毛確保が最優先となり、品質は二の次ぎとなる可能性は十分に考えられることです。


1.人毛

かもじ1.jpg (7078 バイト) 理想的な条件を表す例えで、漆を塗るときは満月の時に海の沖に出て船の上で塗る、と言われます。満月の明かりと、ほこりの無い静かな場所が理想ということでしょう。それと同様に漆刷毛には働き盛りの海女さんの髪毛で作ったものを最上とする、と言われます。

それは、働き盛りで髪毛に力があり、髪毛に良い成分を多く含む海草類を多く食し、さらに潮風にあたって油分がぬけて糊漆が中まで染みこむ為に締まった良い漆刷毛ができる、といった意味です。

現実的には、漆刷毛が求める人毛とは太さ、固さがちょうど良い、日本人髪毛で、さらに今すぐに切ったばかりのもの(これを切り毛と言います。)ではなく、何年という時間を経て髪毛から油分の抜けたものを言います。これを「赤毛(あかげ)」と言います。

反対に腰が無く油分の抜けていないものを「黒毛(くろげ)」と言って1950年頃までは区別をしていましたし、漆刷毛に表示もされていました。その後、そういった表示はなくなり上塗り用、中塗り用と用途別の表示に変わっていきました。


かもじ2.jpg (5232 バイト) 人毛は刷毛の業界用語ではベラとも呼ばれます。日本人の毛髪を用い日本髪を結うときに用いる「かもじ」というものがあり、漆刷毛にはその古かもじを処理して使っていました。

この古かもじは、前述の理想の材料にとても近いものであり、その中からさらに良い毛髪を選んで使用した漆刷毛は最高であったと思います。しかし、その後年々かもじが入手難となり、1970年頃から輸入されるようになった中国産人毛に、徐々にとって代わられるようになりました。

現在の日本では、需要がない為に古かもじの収集システム、すなわち、収集、競り市、販売のサイクルが完全に崩壊し、古かもじ入手不可能となり、泉清吉印の漆刷毛を除いては、全て中国産人毛使用ということになっています。


さらに、この中国産人毛でさえも10年単位で振り返って見てみますと価格高騰による入手難と品質低下がずっと続いてきていることがわかります。

 中国産人毛は12インチ、16インチなど長さによって価格の差がありますが、表示寸法よりも短いものが、昨今多く混じるようなったりしてきています。中国での人毛集積所も以前の5カ所から3カ所に減少したと聞いています。

 元来、人毛の用途はかつらや美・理容のカット練習ウイッグに使用されるものが大部分ですが、時代と共に生産地が、日本、韓国、中国と移っていきました。さらに、中国では原材料の人毛で輸出するよりもかつらなどの付加価値の高い製品で輸出したいとの希望もあり、それが原材料の価格高騰につながってきています。

 現在の日本では、採算点を越えた高価格の為に、数少ない国内の原毛商も販売の確証が持てず在庫はしなくなりました。その為、希望の長さ、質、量、の人毛を選ぶとか、入手の時期を指定できる状態ではなくなっています。従って近い将来、この中国産人毛でさえも、日本人毛髪の古かもじがたどつた道をたどり、入手が困難になるのではと危惧しています。


2.馬毛

本毛.jpg (3851 バイト) 立交刷毛(たてまぜばけ)や刷毛目刷毛(はけめばけ)、胴摺刷毛(どうずりばけ)には馬毛を使用します。

初代泉 清吉から八世 泉 清吉までは牛毛を使用してきました。しかし、この牛毛は性質に味がある代わりに大変にクセが強く、刷毛に使えるようにまっすぐに処理加工することは、とても大変な作業が必要です。

その為に、1975年頃より私、九世 泉清吉はクセの少ないまっすぐなものを選びやすい馬毛に変更しました。

さらに1980年頃までは日本産の馬毛を使用していましたが、現在では扱い易さの観点から、中国産馬毛になっています。

馬毛では、固い尾毛(本毛(ほんけ)という)とやや細くて軟らかめの、たてがみ(振毛(ふりげ)という)を使用します。

本毛は、立交刷毛の立毛(たてげ)、胴摺刷毛、刷毛目に使用し、振毛は胴摺の軟らかめの刷毛、乾漆刷毛に使用します。


振毛.jpg (3993 バイト)

この乾漆刷毛は1977年、に九世 泉清吉が新規に考案した新しい漆刷毛です。

また馬毛には赤、黒、ゴマなど色による性質の違いもあります。


3.糊と漆

毛固め(けがため)、巻込(まきこみ)工程では糊漆を使用します。この糊は小麦粉糊であり、グルテンの多い強力粉をつかいます。さらに、接着力を増すためにタピオカという粉も混ぜ合わせています。

そして、鍋の中に水と粉を入れて火にかけ、十分に練って作ります。この糊は案外腐りやすく、接着力に影響してきますので注意が必要です。保存限度は冬期で1週間、夏期では2−3日が目安です。混ぜ合わせる漆は生漆(きうるし)で接着力の強いものを選んで使用します。

4.板

板作り2.jpg (119569 バイト) 一般に、刷毛はどうしても毛が最重要な為、板材に目が向かないのが普通ですが、考えてみると板の乾燥、厚さなどの削り具合いによって、刷毛の最終的な仕上りに決定的な影響を及ぼします。

すなわち、慎重な作業で仕上てきた漆刷毛が、最後の最後になって、反ったりねじれたりしてしまうことが起きるのです。

昔は檜の古材などを用いたり、1960年頃までは檜の丸太ごと購入し庭に何年も置いて乾燥させてから使ったものです。

 


現在のやり方は、直接木場に足を運び、自分の目で刷毛板に適したものを選んで製材所に回し、1分5厘の厚さに挽いてもらいます。節のないもの、目の曲がっていない柾目、できれば目のつんでいるもの、などを選ぶと、実際に刷毛板にできる部分は少なくて、購入した1/3程度は捨てることになります。

もつたいないから、という理由で向かない板を使うと最後になつて仕上の鉋がけに相当の苦労をさせられるものです。最悪の場合にはだめにしてしまうことさえもあるのです。良い材料を使うと作業性も仕上りも良いものです。

従来より、美しくて丈夫な木曽檜を使っていますが、良いものは高価です。

安価なものを選ぶと捨てるものが多くなります。そんな理由から、一部の漆刷毛には1980年頃からスプルースも使っています。いろいろな板材を試用してみて、多少檜より固くて鉋の切れ味の持ちが悪いのが難点ですが、刷毛板としては十分なものです。