製作用具

漆刷毛は材料となる毛に、人毛を使うなど特殊な材料と用具を使います。。 制作用具には、その人毛(髪毛とも言います)を梳かす櫛、ハサミ、毛を固める工程に使うカネベラ、板と毛板を接着するときの巻込工程で使う紐、くさび、ヘラ、カンナ、カンナ刃、鋸があります。 どれも、漆刷毛製作用に修正加工したり、自分で製作したものがほとんどです。江戸の昔から現在まで300年に渡り、工夫、改良をし続けてきたこれらの道具がなければ漆刷毛はできません。以下、これらを紹介していきます。

1.人毛(髪毛) 板   
漆刷毛は一般の他の刷毛と大きく違い、人間の髪毛を使用します。これは、1652年初代泉清吉がはじめて考案したことで、以後日本の漆刷毛は人毛を用い、現金の形になりました。人毛を使う理由は、粘度の高い漆を塗る為に必要な腰の強さと刷毛目の着かない軟らかさを兼ね備えているからです。刷毛目をつける刷毛には、馬毛の尾毛を使います。また、私の時代になって考案製作した乾漆刷毛には、馬毛のたてがみを使っています。刷毛板には丈夫さと美しさを持つ木曽檜を使っていますが、1980年頃からアラスカ檜(スプルース)も使っています。

2.櫛  人毛、馬毛を梳かし整える時に使う櫛です。木製以外の櫛を使うと梳かすときに静電気が起きてしまうために、つげ、梅などでできた櫛を使います。目の粗い荒櫛、中間の櫛、細かな目の仕上櫛など6種類を使い分けます。また、日本人毛髪でできた、「かもじ」を梳かす荒櫛には自作の馬鍬(まんが)を使います。これは、木製の棒に櫛の刃として千枚通しを何本も使ったものです。

3.ハサミ 
人毛・馬毛を切る時に使います。普通の裁ちばさみでは人毛が逃げて案外切りにくく、アメきりハサミを昔から使用します。

4.カネベラ 
非常に重要な道具。毛固めの工程で使います。人毛の束に糊漆を含ませながら一定の幅厚さにしていくとき、このカネベラを使います。木製では軽すぎ、金属のヘラを使いますか゛、形が重要です。先端にいくほどに微妙なカーブで反っていき、また薄くなっています。これも自作の道具です。真鍮を鍛冶屋さんで大体の形に打ってもらいヤスリで仕上ていきます。毛固の工程をおこなった後は、砥石で先を研ぎカーブを着け直します。また、ほんの少しのキズでも人毛が引っかかってしまいうので、磨き粉で丁寧にみがきます。

5.鉋、鉋刃 
ほとんど毎日のように使う重要な道具です。漆刷毛に使う鉋は普通に見かける2枚鉋とは違っていて1枚しか鉋刃が入っていない平鉋です。これは、漆刷毛に使う板作りが柾目で、逆目のおきない木曽檜の良いものばかりを使うからです。また、私のわりあい小さな手に合わせて、カンナ台の厚みを9分にして特注で作ってもらっています。

幅が1寸4分、1寸6分、1寸8分の3種類、それぞれ荒削り、中仕工、仕上とあり、台の大きさ、鉋刃の角度の違いなど30丁、そして刷毛の側面を削る内丸鉋、小さな無部分を削る豆鉋をふくめると約50丁を使い分けます。 鉋刃も、一般と違って耳(両端)を落としていません。これは、鉋刃だけを使う作業も多く、この耳の部分を使うからです。毛板の切断には、幅が2寸5分、3寸といった大きな鉋刃、毛板を板の幅にあわせて切る作業では、1寸4分を使います。。

そして、さらに、この鉋刃を使う「毛摘み」という重要な作業があります。これは、仕上の最後に毛先を砲弾型に鉋刃で整える工程です。良い砥石で最高に切れるように研いだ鉋刃がないと何年やっても難しい工程です。

6.ヘラ  
これは、木製のヘラです。糊漆と漆刷毛を混ぜたりする作業には三角形のヘラ。これは漆刷毛を扱う人なら必ず使う普通のヘラです。しかし、板と毛板との接着に使う棒上のヘラは自作の特製です。これも、長さ、カーブが微妙であり、その作業性に大きく影響いたします。

7. クサビ
板と毛板との接着の工程「巻込」のときにつかうクサビですが、これも自作です。刷毛の幅の種類ごとに、1寸から4寸5分まで13種類、そして数は各10組から100組ぐらいまで、ざっと1000組はあります。檜の根の部分の固いところを使って作り、よく締まるように、また、紐の間にはいっていくようにカーブをつけて作ります。このほかに、刷毛の細部を締め付ける、大きなクサビの補助の小グサビというものも使います。

8.鋸  
板作りに使う鋸、刷毛にはすべて柾目の板を使い、長さを切る事だけに使うのですべて「横引き」だけです。特別なものは、この「切出し用の小型鋸」です。これは、漆刷毛の毛先を切出すときに使う小型の鋸ですが、作業がやりやすいようにに先端の最初の刃をつぶしてあります。漆刷毛の切出しに、一般の塗師は切出し小刀を使いますが漆刷毛師はこの小型の鋸を使い作業の効率を上げています。しかし、慣れていないと板だけでなく毛板まで切ってしまいます。

9. 罫引き 毛引き 
板作り、小物裂き(幅の広い刷毛から狭い刷毛に裂く作業)に使用する道具。毛引きの刃が相当に切れないと固めた毛板と板の着いた漆刷毛を裂くことは難しいものです。

10. 木槌  
通常の鉋刃の出し入れに当然使いますが、大事な用途に巻込のクサビ打ちがあります。刷毛に巻いた紐の間にクサビを入れ、それをこの木槌で打ち叩いて押し込んでいくのですが、ちょうど良い重さ、大きさが必要であり、打ち込み易いように、木槌の面は、真っ平らにしてあります。写真の大きさの木槌の他に毛板を鉋刃で切断する「毛断工程」で使う、もつと大きな木槌も使います。 

11.その他
  そのほかに漆刷毛製作に必要なものとして、巻込工程で使う「紐」があります。以前は。3本縒りの麻紐を使っていましたが、入手難のため、現在では3本縒りの綿の紐を使っています。大きな刷毛の時は、太いものを、小さな刷毛の時は、細い紐を使います。

毛固台・巻込台・削り台・毛摘み台   それぞれの作業をするのに必要な台です。私の体の大きさにあわせて作った全部自作の台です。特に高さは、作業の能率、疲労度に大きな影響があります。

細かいものとしては、ハタガネ 板を束ねてまとめて削るときに使う、 鉈  板から白太の部分を取り去る時に使う、引っ掛け  削り台で板を削るときに板の端をとめる木。いろいろな高さのものが必要、などがあります。