トップ  展示会のお知らせ   工房探訪記    展示会訪問記  漆刷毛のご紹介  使い方   漆刷毛師泉清吉   

泉清吉の漆刷毛製作工程

トップ  >  漆刷毛の製作工程


 
漆刷毛は多少の違いはあってもどの漆刷毛師もほとんど同じ、とお考えの方も多かろうと思います。

実際は、カタチは同じでも中身はまったく違うものです。道具、材料、製作技法もこんなに違うかと思うほどです。

生粋の神田江戸っ児職人としては、自分の仕事はこうですああですとは、言いたくありません。

野暮ですからね。

しかし、今まで一子相伝の口伝・秘伝として伝えられてきた江戸以来の伝統技法を述べておかないと、全部同じと 思われ

かねません。これはどうしても避けたいと思います。

 

そんなわけで、公開できる範囲で、1656年以来360年間続いてきた泉清吉の伝統技法を掲載させていただこうと思います。

写真は左から、七世 泉清吉 八世 泉清吉 九世 泉清吉。

2015年現在、この江戸からの伝統技法を行っているのは漆刷毛師の泉清吉だけとなりました。

他は現代風アレンジをなさっておられます。

 

江戸以来の毛引き・毛揃えをしているのは泉清吉のみ

江戸以来の毛固めをしているのは泉清吉のみ

写真のように口で巻込紐を引っ張る工程も江戸以来の泉清吉のみ

自分の膝の上で巻込作業のクサビを打つ作業をしているのも江戸以来の泉清吉のみ

その他、違いはたくさんありますが上記の江戸技法は譲れないところです。

漆刷毛の製作工程−1−毛洗い

 1 毛洗い(けあらい)

漆刷毛には切ったばかりの髪毛ではなく、ある程度の期間が経って脂気の抜けた、「赤毛」(あかげ)を用います。

1975年ぐらいまではすべて日本人の髪毛を使用してましたが、以後90%は中国産毛髪を使用するようになりました。 現在はまたわたくしは日本人髪毛も使っています

髪毛にはホコリ、ゴミ、よごれがかなり付着しているので熱湯で何度も何度も良く洗い、流水ですすぎます。 強い塩素で洗う向きもありますが、泉清吉では使用しません。髪毛が弱くなりますから。

それをゆっくりと天日で干して乾かします。このときに10−20%の毛は落ち毛としてなくなってしまいます


  2 毛揃え(けぞろえ)

洗い終わった毛の腰のあるなしを選別し、また長さを揃える作業です。この工程は一番単調でしかも根気のいる大変な作業です。

細い毛を数十本単位でつかみ、引っ張る指先は、慣れるまでには熱を帯びて腫れ上がるほどです。

この工程で、折れたり曲がったり、からんだりしている悪毛が取り除かれ、約半分ほどになってしまいます。

毛揃えをしなければ、本当の悪毛は取れません。

悪毛を取り除き、上塗刷毛に使用できる良質髪毛はほんの3割程度しかありません。

※「毛揃え」という説明語句は九世・泉清吉が考え、使い始めた言葉です 

昨今 無断盗用、使用頻発のため無粋な表示ご勘弁ください

 


極上の刷毛に用いる純良赤毛は最初の量のたった1割です

しかし、きれいに揃った極上髪毛はまっすぐにピ−ンと光沢もあり、 どなたでもわかるほどにすばらしいものです。

 この毛揃えの工程は、江戸以来の伝統技法で、唯一、泉清吉しか行っていない方法です。 ここが違います。

大変な手間がかかるために他の漆刷毛師は省いています。泉清吉ではここが肝要として黙々と続けています。

 3 毛固め(けがため)

漆刷毛の品質を決める最も重要無な工程です。

その作業は生漆(きうるし)を使った、刻々と乾いていく麦漆を使用するために、仕事を始めたら終わるまでほとんど席を立てない作業です。

揃えた髪毛の一本一本に、櫛で梳かしながらこの麦漆を染み込ませていきます。荒櫛、中櫛、さらに細かい仕上げ櫛と、1枚の毛板を作るのに最低約150回も櫛を通します。

一番気を使い体力も使う工程です。毛、一本一本に染み込ませないと、スカスカとした鬆の空いた漆刷毛になってしまうのです。

※「毛固め」という説明語句は九世・泉清吉が考え、使い始めた言葉です 

昨今 無断盗用、使用頻発のため無粋な表示ご勘弁ください

 


丁寧にやらなければなりませんが、麦漆は刻々と乾いていき、髪毛は 急速に締っていきます。

乾きを見ながら生乾きでの状態で手に持った反対側を毛固めます。

大変で手間もかかります。

他の漆刷毛師は数日後に反対側を固めるやり方です。

しかし、当然、継ぎ目は使えない部分となるのです

江戸以来の伝統技法を守る泉清吉ではしない方法です。

その日の内に左右を毛固めする江戸以来の伝統技法です。

ここも違います。


 4 毛板の乾燥 (けいたのかんそう)

この毛板の乾の重要な点は自然乾燥でゆっくりとやっていくことです。

人工的に急速乾燥させてしまうと、反ったり割れが入ったりしてしまい、今までの工程がすべて無駄になってしまいます。

また、表裏均一に乾燥させるために一定時間ごとに裏返しをしてやらねばならず、ある程度の乾燥が進むまでの3−4日は外出もままなりません。

とくに気温の高い夏場は要注意であり、できれば毛固めの工程には 避けたい季節であります。

※「毛板」という説明語句は九世・泉清吉が考え、使い始めた言葉です 

昨今 無断盗用、使用頻発のため無粋な表示ご勘弁ください

 

漆刷毛の製作工程−4−毛板の乾燥

漆刷毛の製作工程−5−板作り1

 5 板作り

漆刷毛師には、髪毛を扱うかもじ屋の仕事の他に、板作りの指物師のような仕事も 要求されます。

1960年頃までは檜の丸太を東京・深川の木場の専門問屋より購入し、鋸、鉈を使って板作りをしていました。

970年頃から製材所で所定の厚さの板にしてもらえるようになり、少し楽になりました

しかし、最終的には、鋸、鉋を使って、必要な長さに切り、巾寸法に加工し、平らに削ることは江戸時代から変わりません。

刷毛板には、品種により、細かな柾目の天然木曽檜、アラスカ檜(スプルース)南洋檜(アガチス)を使用します。


漆刷毛には、板に節があったり目が曲っているものは使えません。真っ直ぐなものだけです。

板材も髪毛と同じく刷毛板に使用できるのは最初の量の半分以下です。

良い板作りなので削るときには逆目ができにくく、使用する鉋は 一般的に目にする2枚鉋ではなく、今では特殊な部類に入る1枚鉋(平鉋)となります。

使用する鉋の巾は1寸8分.1寸6分.1寸4分、小鉋。それぞれ荒削り、中仕工、仕上げ用、さらには5分の内丸鉋、などおよそ50種類もの鉋を使いこなしていきます。

鉋を研ぐ、ということも簡単にはいきません。

削る種類によって、鉋の研ぎ方も微妙に違ってきます。

砥石の選定にも苦労します。これが楽しみなこともあるのですが。

漆刷毛の製作工程−5−板作り2

漆刷毛の製作工程−6−巻込作業1

 6 毛裁ち (けたち)

完全に乾燥して硬く締まった、まるで昆布のようになった毛板を鉋刃で切断します。

抜け毛がでないように、もったいないようですが長さの上下3割程度は切り捨ててしまい、 中程の良いところだけを使用いた します。

そして、長さを切った毛板を、作る漆刷毛の巾に合わせて鉋刃でキッチリと裁ち落としていきます。

刷毛板から少しでもはみ出ていると、次の巻込工程で隙間ができる原因になりますので、板と毛板の面合わせを指先の感覚だけをたよりに調べて正確に裁っていきます。

指先は漆刷毛師にとって大事な道具のひとつです。


7 巻込 (まきこみ)

毛固めのときよりも硬めに作った麦漆で、作っておいた板と毛板を張り合わせ、丈夫な紐でしばっていきます。

写真にある通り、紐を口にくわえて行う作業ですが、これは紐の引っ張り加減を口で感じ取り、調製するためです。

次に、漆刷毛の巾に合わせて製作してあるクサビを表裏、上下と4枚打ち込んで締めていきます。

これは、あぐらをかいて座っている自分の左膝を台として叩いていくのです。こうすることで、クサビの入り方、紐の締め具合が体で感じ取れるのです。 これも

この作業も、1日やると立ち上がれないほどになってしまいます。

これらの工程でもわかるように、手、指の他に、口、膝も使い、体全部が製作の大事な道具となります。

現在、泉清吉だけが行っている江戸明暦2年以来の伝統技法です。ここも違います。

ちなみに2010年、40年間使い続けた左膝の半月板は割れてしまいました。父親・八世 泉清吉は、入れ歯になったら漆刷毛師引退だと言い続けていました。 2013年歯も欠けてしまいました。

漆刷毛の製作工程−6−巻込作業2

8 乾燥

巻込の終わった刷毛は、半年でも1年でもできる限り長期間、自然乾燥させます。決して急いで強制乾燥させてはいけません。

急がされて1カ月ぐらいの短期間でエイヤッとばかりにやりますと、最終仕上げをしてから完成した後で、雨や日照りなどの気候変動でアッという間にソリ、ネジレが出てき て失敗となってしまいます。

従って、漆刷毛は、ご注文を受けてからすぐさま出来上がるということはなく、最初の工程から作り始めれば、1年がかりです。

ただし、現代ではそうもいかずに、通常品はできるだけ乾燥の時点までの在庫をしておくようにしているわけです。


 9 仕上

十分に乾燥の終わった漆刷毛を、鉋で徐々に板を削って薄く仕上げていきます。

上下の厚さを均一に少しづつ削っていかないと、刷毛が反ってきてしまいまので注意が必要なのです。

そして、最後は上下の板の厚みを微妙に違えて、反りを押さえるためのバランスを取ります。

 10 毛摘み  (けつみ)

ここが最後の大事なポイントです。また、刷毛の出来具合の最終チェックでもあります。


切出した刷毛先を鉋で尖らせる作業ですが、単に尖らせるのではなく、腰の強さを出すために砲弾型にきれいなカーブをつけて尖らせます。

この方法も泉清吉だけのものになります。ここも違います。

やり直しのきかない、この微妙なカーブをつける作業をするにはかなりの経験が必要となります。

尖らせた毛先を見て、板と毛板との接着状態、毛の密度の状態を確認します。

そうして、問題がなければようやく1枚の漆刷毛が出来上がったことになります。長い長い工程でした。


Copyright (c)   画像、記事、および泉清吉考案の独自説明語句の転載不可です

近年無断盗用、多発のため無粋な表示ご容赦ください

→毛揃え 毛固め 毛板 毛裁ち は漆刷毛説明語句として九世・泉清吉が考えだした造語です