平成16年度

刷毛板作り

戻る トップページに戻る
 

刷毛の板材は人毛に比べると良いものは少なくなっているとはいえ、まだまだ入手が可能な材料です。しかし、父親の代から確保してもらっていた板材の問屋さんがここ4−5年、あいついで廃業や合併などで姿を消し、次第に細かな希望の材料の入手が難しくなる傾向にあります。やはり、ただ刷毛を挟む板材があれば良いというものではありません。そこには、美しく光沢があり狂いの来ない丈夫なもの、さらに細工のしやすさなどが要求されるのです。


 

 初代から父親八世 泉清吉まで330年間は木曽檜のみを使用してきました。木曽檜は天然生の尾州檜のことであり、造林木の檜とは目のつまり方が決定的に違っています。 この木曽檜は美しく丈夫で、細工もしやすく最高の材料なのですが、高価です。その中でもさらに細かく品質によって等級が分かれています。節のないものを無地、白太がないものは赤、目が細かく白太で節もないものを赤無地と呼びます。

さらに長さがあり巾の広いものは数も少なくとても高価です。しかし、束物と言って木曽檜でもいろいろ混じっているものを購入しては、使えるものが少なく、捨てる部分ばかりが多くなり結局は高くついてしまいます。この見極めが肝心なところでしょう。

 

1973年から79年頃までのオイルショツクの時代、東京の木場へ仕入れに行くたびに価格が上がって行きました。刷毛1枚に使う板材だけでも数千円もかかるのでは出来上がる刷毛も高額になってしまいます。このままでは、なかなか気軽には漆刷毛を使ってもらえなくなると判断した私は、父親の渋る顔を横目で見ながら漆器産地を回り、いろいろと調査を開始しました。

輪島の方に行くと、「刷毛の板材は剥いでしまい、あての木(あすなろの木を石川県ではそう呼ぶ)を貼り直す加工をしてしまうから、木曽檜なんかの高いものはいらんよ。」と言われ、木曽平沢に行けば「やはり木曽檜だよ。刷毛を口にくわえたときの感触が全然違う。」とも言われました。木曽檜も使いながら外材も使ってみようと東京の木場へでかけて行き、材木問屋さんを回りました。

少しずついろいろな板材を試してみることにしたわけです。

 

 

板作り.jpg (24860 バイト) まずは米松。値段も手頃。しかし、使いづらくヤニが出たりして仕上りもきれいではありません。これは少量の試買だけで刷毛の製作には使用できませんでした。

米杉。軟らかく細工がしやすく良いかな、と思い実際に使用して刷毛を製作、販売してみました。しかし、結果はだめでした。色合いが赤く見栄えが悪く、「鉛筆に使っているような板だな。」と酷評されてしまい一度の製作で終わりでした。

次ぎにホワイトファ−と呼ばれる米栂。白っぽい板材でちょっと見は良くて多めに購入してしまいました。しかしいざ細工してみると細かな節も多く、上品な仕上りは期待できずに試作だけで製品にはできませんでした。

 

ここまできて、やはり外材はだめかな、と弱気になり当時他の刷毛師が使っていた台湾檜を試してみました。確かにまずまずの見栄えと細工もしやすいのですが、色が良くなく光沢が今ひとつありせん。

元に戻り今度は、米ヒバを試してみました。。やや黄色みを帯び、香りが強い板材でが目も細かくきれいで真っ直ぐです。これを使って製作した刷毛は評判もまずまずで成功でしたが、外材にしては高価格です。2年ほどの苦労をして最後にアラスカ檜と言われるスプルースにたどり着きました。

手鉋で削るには硬い板材で苦労しますが、後の条件はクリアーしていました。さらに4寸巾の巾広のものも入手できるということで、このスプルースを使用して製作してみました。 これが思いの外評判が良く、1980年頃から広重銘の刷毛の一部にこの板材を採用しまし現在に至っています。

 

 しかし、なんのかんのと言ってもやはり木曽檜です。この中からさらに選んだ板材で製作した刷毛の美しさは製作していても気分がとても良いもので、出来上がった漆刷毛を手にした使い手からは眺めて良し、手で触って良しとお誉めをいただきます。

伝統の泉清吉刷毛、私の追い求める「用具の美」にはなくてはならない板材です。


 

作業工程

昭和30年代までは丸太で購入していました。家の庭にはいつも丸太がころがっておりよくその上で遊んだものです。氷を切るような大きな刃の鋸で切断し、鉈で蜜柑割りしていきます。そのときに目の曲がったものなどは風呂の湯沸かしに使ったり近所に配ったりしていました。

昭和40年代になると製材所で薄く所定の寸法にで挽いてもらうことができるようになりとても楽になり、丸太は姿を消しました。この方法で今日までいたっています。


1.選別

 

 まず東京 新木場の木曽檜、スプルースの専門問屋さんに板材を確認しに行きます。以前、手間を省くために有る程度の長さと厚さに割ってある檜板を勧められたことがありますが、やはり私の製作目的に合致した板材だけを求めることはできません。納得した板材だけを使いたいので、自分の目で見、手で触って選びます。

そして製材所に回してもらい厚さ1分5厘に挽いてもらいます。この厚さも何回もの試行錯誤から出てきた数字なのです。2分では厚くて1分では強度が弱いのです。 しばらくして届けてもらい、6寸5分、7寸5分の長さに丸鋸で切断します。

ただ単純に寸法を引くのではなく、板材のケバなどで判断して削ったときに硬そうなものや逆目の起きそうなもの、目が曲がっているものは除いていきます。使えるものは良くて2/3、悪くすると半分でしょうか。もったいないからといって悪い材料を使うと結局仕上の作業時がかかり、なんといっても美しく仕上りません。ここは、思い切って選ぶことが肝要です。

2.木取り

 

次には、所定の長さに切り終わった板材から、毛引きという道具を使い、2寸、1寸8分、1寸5分、1寸2分、1寸など7種類の巾寸法に木取りしていきます。このときも作業をしながら、良くない目の材料は捨てていきます。

 3.板削り

 

木取りした板材の目を見ながら、巻込工程で糊漆を塗る片面だけ鉋を掛けて削っていきます。上手く削ると2枚の板を合わせて持ち上げても吸い付いて落ちないくらいになるものです。

刷毛に仕上げ鉋を掛ける際には刷毛の上から毛先の下に向かって掛ける具合になります。その時に逆目がおきないように、この時点で板の目を見て鉋掛けする下の方に忘れずに印を付ておきます。

 

 4.分決め

 

今度は巾寸法をきちんと決める為にハタガネという道具で、板を6−7組束ねて板材の横部分を削っていきます。(板の1組とは上下の2枚のことです。)定規を常に側に置き、削るたびに測りながら慎重に作業をしていきます。削り過ぎたら失敗となります。刷毛の巾寸法が表示で1寸5分とあれば板の巾寸法はやや少なく1寸4分6−8厘に仕上ます。

これは、毛先部分をほぐしたときに、広がってちょうど表示寸法になることを考慮してあるためです。これで刷毛板の上下の1組が出来上がりです。

 

5.へり木作り

 

刷毛には横の部分の板も必要です。これを「へり木」と呼んでいます。この部分の製作もしなければなりません。この部分は、毛先の化粧仕上をきれいに仕上るために目の良いものを選ぶことが必要です。曲がっているものは絶対に避け、上下の板よりも良材を選ぶ必要があります。

刷毛の厚さによって製作するときに使いわけるために、ここでは、5分、4分5厘、4分、3分5厘、3分と5厘違いで5種類製作しておきます。また、削り過ぎて薄くなってしまうと、刷毛に巻いた紐の中にクサビを打ち込んで締める巻込工程で、力負けしてしまいへり木が割れてしまうことがあるので板厚に注意を払います。

 

.完成

 

こうして1枚の刷毛に上下2枚、両横2本の板材が一組となり板作りが終了となります。 一つ一つ違う板材を最初から自分の目と手で選び、段々と手で加工されて刷毛板になっていくのは大変はありますがとても楽しみでもあります。1/3から半分に達する残りの板材は長い時間がかかった大切な天然資源です。やはりもったいないと言う気持ちがあり、この部分は刷毛板にこそなりませんが、半通しに使う継板に使用しています。