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一口に漆刷毛といつても、意外にたくさんの種類があります。品種別、寸法別に分けると、標準のものでもなんと144種類もあるのです。
寸法では、1分巾(3ミリ)から3寸(90ミリ)まで12種類があり、これは塗る面の広さによって使い分ける必要があるからです。たとえば、寺社のような建築物の大きなもの、座卓など巾広のもの場合は、2寸5分−3寸の刷毛、お盆には、1寸5分、お椀にはお椀刷毛との別名があるくらい1寸2分、1寸3分。そのお椀の高台には6分、お茶道具の棗には8分、7分が使い良く、塗り終わった最後の隅取り(別名 際刷毛、楊枝刷毛、角刷毛)には2分や1分が良い、などのように使い分けていくのです。
さらに、12種類の品種があります。塗り刷毛は、下塗り・中塗り刷毛と上塗り刷毛に大きく分けられ、さらに板にはさまれている人毛が鉛筆のように最後まで通っている「本通し」と半分まではいっている「半通し」に区別されるのです
。そのほかに、特殊な刷毛として、摺漆に使う胴摺刷毛(別名 摺込刷毛)、刷毛目をつける刷毛目刷毛、乾漆技法に使用する乾漆刷毛、固めに作った漆を塗る立交刷毛、さらに現在では製作廃止となってしまった泡消し刷毛というものもあります。
もうすでに立交刷毛、泡消し刷毛をご存知ない方も多くなり、近い将来、いったい何の漆刷毛かわからなくなる可能性も大きく、ここでいちど整理しておく必要があると痛感し、ここにまとめてみました。
泉 清吉 上塗り刷毛
作り方、作る道具、作る材料も「伝統を維持して」の初代 泉清吉流です。江戸の昔と同じ時間、手間をかけて作っています。塗る道具ではありますが、用具の美として仕上の形にもこだわり、ただ単に平らに削るのではなく、微妙なカーブをもった日本古来からの伝統的な形である「胴張り」にもしてあります。
腰が強い脂気の抜けた、日本人毛髪の「かもじ」を使用していることが、中国産人毛使用の漆刷毛と大きく違うところです。しかし1999年に日本人人毛の収集システム崩壊により、まとまった量は入手不可能となり、手持ちのかもじがなくなった時点で製作を中止する覚悟でいます。
大極上 上塗り本通し刷毛
1975年オイルショックの頃、九世 泉
清吉は日本で初めて中国産人毛を漆刷毛に用いることにしました。中国産人毛の使用に踏み切らなかったら日本の漆刷毛は現在まで続いていなかったと断言できます。アジア各国の人毛を試し、最初はいろいろ不具合もありましたが試行錯誤の結果、立派に漆刷毛として使えるようになりました。
その中国産人毛の中から上塗り用に選び、さらに、その中から目の細かい櫛で悪毛を除いて選び抜いた純良な人毛を使用します。ここまで選ぶと、最初の原毛から20%程度しか取れません。捨てていくことが人毛の選別と言われる所以です。刷毛の全部の長さがある、通しの毛を使用するために抜け毛はあり得なく、半分に切っても逆から使用しても大丈夫なようにしました。これは一見、簡単な普通のことのようですが、漆刷毛の歴史の中では大きな改革でした。
今までは、本通しといっても刷毛の最後の方から1−2寸のところは手で持つ柄の部分であるということで、毛が抜けることは漆刷毛師、使い手の間で当然のことだったのです。しかし1975年あたりからだんだんと、若い使い手から、逆さから使うと毛が抜けてしまうので困っている、というような事がでてきました。
全部通しの漆刷毛を作る、ということは使用する人毛からたくさんの裁ちおとしを出すことでもあり価格的にとても難しいことでしたが、それを九世 泉
清吉が普通の本通しとして実現したもので、いつの間にかこれが当然のことになりました。
大極上 上塗り半通し
刷毛の長さの半分まで毛が入っている半通し刷毛も、1975年以前、以後では大きく変わったのです。まず、以前の泉清吉刷毛では、半通しといっても本通しのように後ろまで毛が入っていいる構造でした。但し真ん中でいったん毛を継いであり、その為に抜け毛になり、少し切り出すと今度は最初の毛厚の約半分の毛板が入っており、また使える、という今から考えると不思議なものでした。
2003年現在では、このような半通しが以前は普通であったことがお分かりになる方もおられなくなりました。以前は使い手の本流が本通しだったため、他の漆刷毛師でも半通しは通常に製作していることはなく、一部入門用に使われていた程度でした。ここで、九世 泉
清吉がそれまで 継ぎ刷毛と言われて割増特注品だった半通し刷毛を、毛抜けのない普通の半通しとして作り始めました。
短い人毛を使うのではなく、本通しの長いものを半分に切って贅沢に使用して抜け毛がない半通しにしたのです。最初は軽すぎるなどと敬遠もされましたが、現在の漆刷毛ではこれが本流となっています。その最初のきっかけを作ったことを誇りに思っています。軽い、柄を継がずに最後まで使える、購入の時の価格の負担が少ないという大きな利点があります。
特選 上塗り刷毛
これまで、刷毛板には檜が使用されていましたが、この刷毛には1977年に日本で初めて九世 泉
清吉が使用することにした外材のスプルースが使用されています。
このスプルースはアラスカ檜の名で住宅の柱などたくさん使われていて、檜に比べて少し固めの板材ですが目も細かく、刷毛板として十分な性質を持っています。檜はもちろん最高の板材ですが、高価です。なんとか漆刷毛を普段使いにしてもらう為に、杉、ヒバ、米松、栂、など各種の板材を試行錯誤した結果、選んだものです。
25年経って今ではすっかり定着しています。
刷毛目
絞漆を用いた刷毛目塗りに必要な刷毛です。馬毛のなかでも固い、尾の毛、本毛を使用しています。八世
泉 清吉までは牛の尾毛を使用していました。
牛毛をご存知の方からは、味があって良かったと言わていましたが毛の曲がりのクセが強く、洗って使えるまで重しを乗せて1年も寝かせておかねばなりません。
それでもクセを完全に取り除くことはできないもので、1975年を最後に九世 泉
清吉は製作を断念いたしました。現在では、馬尾毛のまっすぐなものを選び品質的に向上しています。
乾漆刷毛
従来、乾漆技法で使用される漆刷毛は、やや毛厚の厚い、下・中塗り刷毛を用いていたのですが、摩耗が激しい欠点がありました。
1977年に、九世 泉
清吉が改良して軟らかめの馬毛を使った乾漆刷毛を試作、ちょうど良い具合の刷毛となり、現在では乾漆をするときは必ずご使用いただくまでになっている刷毛です。九世 泉
清吉になっから作られた、漆刷毛の歴史の中では、一番新しいものとなりました。
立交刷毛
立交は「たてまぜ」と読みます。関西の刷毛師では、立入「たていり」と呼んでいました。これも20年前の1980年代でしたら大体の方がお分かりでしたが今では、ほとんど見たこともなく、使い方も分からないのが普通になりました。
現在では使われる産地も、京都、名古屋、の仏壇関係に限られています。普通の人毛の毛板の上下を「立毛」たてげ、と呼ばれる固い馬尾毛ではさんであります。立毛はほんの薄く付けます。そうすることにより、切り出した刷毛の根本が強化されて腰が強くなる構造になり、固めの漆を使うときには、とても具合が良いものです。
立毛がなければ腰の強さをだすのに、相当な毛厚が必要となり、今度は手入れが大変だったり、ゴミが多く出てしまいます。
立交刷毛の外観上で特徴的なのは刷毛先の切出をしていないことです。これは、切出して立毛を残す長さが腰の強さを出す一つのポイントになり、使い手によってそれぞれ違うためです。
泡消し刷毛
泡消し刷毛は、その名の通り塗面にできた泡をそっとなでて消す刷毛です。硬い漆を塗ったとき塗り面に気泡ができることがあります。
その場合に極端に毛厚の薄い泡消し刷毛でなでるわけです。この毛の厚さが2−3厘(0.6−0.9ミリ)と極めて薄く、使い手も新規の刷毛先の切出しには注意しないと毛を切り落としてしまう漆刷毛です。
毛足の
長さが調子に非常に影響を与える漆刷毛でもあります。残念ながら1999年で姿を消しました。
胴摺刷毛 硬め
木地に漆を摺り込む時に使用するもので、毛厚が3分(9ミリ)前後もある、馬尾毛使用の刷毛です。これも刷毛目刷毛と同様に、八世
泉 清吉までは牛毛を使用していましたが、同じ理由で九世 泉 清吉では馬尾毛を使用するように改良したものです。。
クセのない、まっすぐな馬尾毛を選んで使いやすく作っています。漆刷毛師にとっては、固くて櫛通りの悪い馬毛を毛固めするのは非常に大変な作業で、相当な体力を使います。
胴摺刷毛 軟かめ
八世
泉 清吉までは胴摺刷毛は牛毛使用のものだけでした。その後、馬尾毛に代わりましたが、固い刷毛には違いありません。微妙なところですがもう少し軟らかい胴摺もあったら使い良いのではないかと考え、いろいろな馬毛の部位を使用してみました。
結局、馬毛のフリ毛(たてがみ)が一番適合し、1980年に九世 泉
清吉が作ったのが胴摺刷毛軟かめです。毛がやや細目なので、軽く、細かく摺れてしかも疲れず、使い良い刷毛として今では、胴摺刷毛でも7:3での軟らか目の方が多く使われるようになつています。
乾漆刷毛と同様に、以前にはなく九世 泉 清吉になってできた新しい漆刷毛です
胴摺刷毛 髪毛
長野オリンピックメダル製作にも使用された、髪毛を使用した胴摺刷毛です。東京では昔から「艶消し」とも呼ばれて良く使われていて、七世
泉 清吉の明治時代からあるものでした。
馬毛の胴摺刷毛に比べて、細かくびっしりと髪毛が入っているので、きめ細かく摺ることができます。
そのほかに、七世泉
清吉の時代にはあった1回だけ使える山刷毛、現在は製作中止になってしまった、棗、尺八の中などを塗る鎌刷毛、板のついていない毛板だけの板刷毛などがありました。 |